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店の後片付けをしていたら、静流が小さな声で言った
「早く胡蝶に言わないと…帰っちゃうよ?」
『あっ…うん』
ホントは言いたくなかった
だって、今のままでも
十分幸せだから
「星羅?」
『うん…でもさ、無理に知る必要はなくない?』
「ふぅ~ん…もし、胡蝶に本当は恋人が居たら…とか、考えないの?」
『それは…でも…』
「星羅が知りたくないなら別にいいけど」
う~ん…
そんな事言われたら気になるじゃん…
胡蝶は今、一人で外の花を片付けていた
どうしよう…
でも、やっぱり気になる
そっと胡蝶に近付き、
声をかけた
『店を閉めたら、胡蝶の家まで送って行くよ』
それを聞いた胡蝶の手が、一瞬止まったような
気がした
そしてすぐに、笑顔で
答えた
「大丈夫だよ、暗くなると星羅が危ないだろ?」
『大丈夫だよ…子供じゃないんだし』
「だけど心配なんだよ」
『胡蝶…』
やっぱり断られた
『ねぇ…もしかして』
「ん?」
『俺には言えないような秘密があるの?』
「えっ?」
胡蝶の手が止まり、俺を見つめた
「俺が……何かを隠していると思ってるの?」
『それは…』
「何を隠していると?」
胡蝶…怖い
『だ、だから…』
「だから?」
『ホントは家に恋人がいるとか……』
ついに言ってしまった
「ぶっ…なんだよそれ」
『えっ…』
そして笑われた…
めちゃくちゃ恥ずかしい
「馬鹿だな…星羅がいるのに居るわけないだろ?」
『だけど…』
胡蝶が近付いて言った
「俺が信じられない?」
『信じてるけど…』
「愛してるよ、星羅」
『胡蝶…』
「この言葉は星羅にしか言わない」
『うん…ごめん』
胡蝶の目は真剣だった
だから嘘など言っていない
「なにしてんだ?胡蝶、そろそろ仕事だろ」
那智がやって来た
「そうだね」
『ごめんね胡蝶…』
「気にするな…また明日ね」
『うんっ、頑張ってね』
「ああ、じゃ」
「俺はもう一軒配達あるから途中まで車で送るよ」
「サンキュー」
「じゃ星羅、静流と先に帰ってろよ」
『わかった』
那智が一緒なんだから、
恋人なんているわけないか…
車から手を振る胡蝶に
手を振り返しながら笑う
そんな二人を、静流は
黙って見つめていた
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