3153人が本棚に入れています
本棚に追加
「ないけど…でも実際はよく分かんない。」
じっと私を見つめる薫から目を逸らさずに言った。
揺るぎない視線が私にくる。
「頭では、分かってるよ?人を好きになるのって自由だもん。でも…」
視線に耐えられなくなって、私は再び突っ伏した。
「自分がそういう対象になると…びっくりする。ついつい相手を遠ざけてしまう。」
顔を横に向けて、私は薄暗い室に目をやった。
整然と並んだ机、椅子。
僅かに匂う薬品。
ケースに収められた様々な器具。
教室棟から離れているため、廊下を歩く足音も、誰かの話し声もしない。
「私はいいと思うけど?」
しばらくの間の後、呟くように薫が言った。
最初のコメントを投稿しよう!