隣の住人

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今、部屋の真ん中に置かれたテーブルの上には、透明のセロファン袋に入り、青地に銀の筋の入ったリボンをかけられたクッキーが載っている。 さっき、隣に越してきた人が持ってきた。 《隣の303に越してきた、伊東 夜雨です。》 その人の顔を思い出す。 瞳が印象的な人だった。 はきはきと喋り、明るいしっかりした人だと感じられた。 …それだけだけど。 誰かと関わるなんて煩わしいこと、どうして今更しなくてはいけないんだろう。 一人暮らししかいないアパートに、わざわざ挨拶して回るなんてこと誰もしない。 ここは田舎とは違う。 誰もが干渉を嫌う。 見てみぬ振りがルール。 自分が孤独なのだと感じる場所なのだ…都会なんて。
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