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伊東がドアを叩く。
「…秋留さん、どうして秋留さんの領域に私を入れてくれないんですか?!どうして遠ざけるんですか?!」
煩わしい。
人と関わるとこうなる。
煩わしい。
「秋留さん!」
強く叩く。
「じゃあ何で…何で抱いたりしたんですか!!」
涙声で伊東が訴えた。
洗顔を泡立てる。
「何で…抱けたんですか!」
叩く音はさっきより弱くなった。
抱くのに、何が必要?
愛?
恋?
幸せ?
そんなのなくてもいい。
嫉妬。
焦燥。
破壊。
それだけで抱ける。
人間に対して幻想ばかりしか持たない、そんな人間は煩わしい。
煩わしい。
泡立てた洗顔を顔に乗せ、ゆっくり洗う。
叩く音は止んでいた。
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