思い出せない

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「うん。匂う?」 「少し。」 阿純は部屋には入らない。 立ったまま手にしているカップからコーヒーを啜る。 「まだコーヒーある?」 手をひらひらしながら阿純に尋ねる。 「あるよ。」 「私も飲もっと。」 ひらひらさせながら、部屋を横切りキッチンに向かう。 阿純もついてくる。 愛用のカップにゆっくりコーヒーを注ぐ。 テーブルにつき、爪を見る。 粗方乾いている。 「…おいし。」 そう呟いて、立ち上がり、今度はグラスに水を注ぐ。 その水を、キッチンの片隅に置いているミニバラにかける。 いくつかの蕾と、薄いピンクのバラが顔を覗かせている。
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