思い出せない

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「水やり過ぎて枯らさないでよ。」 ちくりとくる言葉を、いつから言い、言われるようになっただろう。 バラの刺が刺さるように、心に突き刺さる。 「…分かってるよ。」 グラス半分程の水を優しくかけて、残りをシンクに流し捨てる。 グラスを軽く濯ぎ、水切りにあげる。 温くなっていたコーヒーも捨てる。 「もう寝るね。」 阿純に声をかけて、横を擦り抜ける。 「…おやすみ。」 その言葉を聞いて、部屋のドアを閉める。 キッチンから水音が微かにした。 ケンカでもない、言い合いでもない、この妙にいらつかせるズレは何だろう。 最近よく感じる。
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