はんこのちから

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「…懐かしい。」 こないだのことなのに、もうひどく懐かしい。 はんこを握り締める。 (もう覚えてないよね、瞳。) ぎゅっと握った掌に、赤い色が残る。 私はそのはんこをどうするか迷った。 ふんぎりをつけたつもりだったけど、また私は逃げるの? わずかなつながりを残したいんじゃなくて、ただ怖かっただけ。 きっぱりと否定、拒否されるのが。 最後に、勇気を。 急いで部屋から出て、階段を駆け下りる。 「柊子、どこ行くの!」 「すぐ戻るから!片付けは粗方済んだー!」 スニーカーに足を突っ込み、慌てて飛び出す。 ぎゅっとはんこを握り締めて。
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