3153人が本棚に入れています
本棚に追加
そう呟いて、由寿の頬に唇を寄せた。
そしてゆっくりと立ち上がり、部屋を後にした。
まだ水滴の滴れる傘をぶらぶら揺らしながら、雨に濡れた道を歩く。
家々の明かりは疎らで、街灯が頼りだった。
歩き慣れた道だが、雨上がりには違った表情を見せる。
清冽な香りを漂わせ、妖艶な雰囲気も併せ持つ。
私はその中に身を任せて、心を落ち着かせた。
―由寿の匂いを消さなくては。
両手を広げて、車の通らない車道の中央を歩く。
夜空を見上げると、雲の切れ間に月と星が覗いている。
いつまでも尾いてくる月星と共に、私は家の門をくぐった。
最初のコメントを投稿しよう!