アニマル・キス

6/27
前へ
/375ページ
次へ
そう呟いて、由寿の頬に唇を寄せた。 そしてゆっくりと立ち上がり、部屋を後にした。 まだ水滴の滴れる傘をぶらぶら揺らしながら、雨に濡れた道を歩く。 家々の明かりは疎らで、街灯が頼りだった。 歩き慣れた道だが、雨上がりには違った表情を見せる。 清冽な香りを漂わせ、妖艶な雰囲気も併せ持つ。 私はその中に身を任せて、心を落ち着かせた。 ―由寿の匂いを消さなくては。 両手を広げて、車の通らない車道の中央を歩く。 夜空を見上げると、雲の切れ間に月と星が覗いている。 いつまでも尾いてくる月星と共に、私は家の門をくぐった。
/375ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3153人が本棚に入れています
本棚に追加