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家の中には憂欝がありすぎる。
何度も逃げ出したいと思った。
両親の不和、気儘な従兄。
でも、一時の逃避が何の解決にもならないことなんて十分知っている。
それなら…現実から目を逸らさず、拒みながらも終わらせるしかない。
流れる涙を指先で払い、立ち上がって電気を点ける。
鞄を置き、数回頭を振って着替えをする。
ふと姿見を見ると、そこに映し出された私の体に、由寿と愛し合った跡が残っていた。
ゆっくりと指でなぞる。
冷んやりとした感触がびりびりと皮膚を伝う。
「…由寿、」
堪らなくなって思わず名前を呟く。
「由寿、由寿、由寿…」
拭いた筈の涙が再び零れてきて、あとからあとから頬を濡らす。
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