3153人が本棚に入れています
本棚に追加
/375ページ
「でも、」
振動の殆どない車は、滑らかに道を走る。
「雛はいつも辛そうな顔をしているよ?」
私は何も言えずに、頑なに前を見ていた。
「家にいる時は、まぁしょうがないけど、でも昨夜は彼女のところから帰ってきたんだろう?」
瑞樹さんも前を見たまま続ける。
「雛は、幸せじゃないの?」
答えられない。
「彼女は、幸せを倍にできる存在じゃないの?」
「じゃあ、6時に迎えに来るから。」
高校の近くに車を寄せ、瑞樹さんは明るく言った。
私は軽く頷いて助手席から下りた。
「行ってらっしゃい、雛。」
閉まるドアの向こうから聞こえた声を背に、私は歩き出した。
最初のコメントを投稿しよう!