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「由寿っ…!」
賑やかな教室の入り口で、名前を叫ぶ。
しんと静まった室内で、一人だけ動く人影があった。
由寿だった。
「雛?どうかしたの?」
昨夜抱いたその温かな体をまたしっかり抱き締める。
「由寿…」
人目も気にせず、私は由寿を包んだ。
由寿は何も言わずに、そっと背中に腕を回した。
「屋上にでも行こっか。」
ぽんぽんと優しく背中を叩いて、手を繋いで歩きだす。
再び賑やかになった教室を過ぎ、人の流れに逆らって上へと昇っていく。
重く軋んだ音を立てる屋上の古びた扉を、ゆっくり開ける。
暗がりに慣れた瞳に陽光が眩しかった。
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