二人の距離

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券売機に千円札を入れ、行き先のボタンを押す。 じゃらじゃらと硬貨の落ちる音と、薄いオレンジの角張った切符が1枚出てきた。 左手でそれを掴み、コートのポケットに突っ込む。 「菫、」 券売機から離れ、待合室で待っていた菫の横に座る。 これから1時間かけて家へ帰る。 甘くて濃かった菫との時間はあっと言う間に過ぎてしまった。 次の電車で、私と菫の距離が広がる。 「3番線?」 「うん、辺鄙なとこだから、ホームも一番奥。」 どちらも互いの顔を見ない。 見られない。 椅子に座ったまま、足の先や通行人をぼんやりと眺める。
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