二人の距離

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ずんずんと歩く菫を駆け足で追いかける。 着いた先は改札だった。 そこでぴたっと菫が止まった。 その横に並ぶ。 荷物を持ち直し、横の菫を見る。 何も言わない。 周りを、時間を気にして足早に歩く人が蠢く。 二人の時間だけが、距離だけが、動くことを拒否している。 「次は、いつ会える?」 静かに呟いた菫の声は、周りの音に掻き消されることなく、私の耳に届いた。 それが合図だったかのように、一斉に二人の時間と距離が動き始める。 辛い合図の言葉。 「…すぐに会えるよ。」 気休めでしかない言葉を返すことしかできない。 そんな言葉を期待してないことぐらい、分かっているのに。
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