二人の距離

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何も言えなくて、また前を向く。 ぎゅっと瞳を閉じ、また開く。 そして改札に向かって歩きだす。 ポケットから切符を取出し、自動改札機に吸い込ませる。 吐き出された切符を取り、ホーム番号を再度確認する。 振り返った。 振り返って菫を探した。 人混みの向こうに菫はいた。 手は振らずに。 強い瞳で私を見つめていた。 「菫っ…菫!」 思わず名前を叫ぶ。 手を上げて位置を示す。 視線が絡まったと思った瞬間、間に人の塊が流れ込んできた。 あっという間に菫の姿を見失った。 「菫っ……」 私も運ばれるように、人の流れで先へと進んだ。
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