二人の距離

7/7
前へ
/375ページ
次へ
「菫っ!」 呼んでも届かない。 もう視界に菫はいない。 二人の距離と時間は動き始めてしまった。 流れから解放され、しばらく立ち尽くす。 心が痛む。 胸を圧迫されるような、重い感覚が燻る。 …喪失感。 周りの風景は秒刻みで変化していく。 きっと、菫ももう駅を背に歩きだしているはずだ。 歩くことを拒んでいるのは、私だけ。 ゆっくり瞳を閉じ、さっき見た菫を思い出す。 強い瞳で私を見つめていた菫が、鮮やかに浮かび上がる。 「…3番線だよね。」 握り締めていた切符をコートのポケットに突っ込む。 前を向いて歩いていく。
/375ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3153人が本棚に入れています
本棚に追加