『あなた』

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卒業式典の終わったキャンパスは、黒山の人だかりができていた。 色鮮やかな袴姿の女子学生に、ぴりっとした雰囲気のスーツ姿の男子学生があちこちに溢れていた。 胴上げや拍手の音も聞こえる。 私は借り物の濃紺の袴の裾を少し持ち上げ、急ぎ足で中庭に向かっていた。 集合時間が迫っている。 卒業証書と小さな花束を入れた紙袋が小刻みに揺れる。 「潤さん!」 どこからか名前を呼ぶ声がした。 周りを見渡すも、探す顔はいない。 窓から見た中庭の様子よりも、今の方が人の数は遥かに多く感じられた。 「潤さん!」 再び声がした。 今度は近くから。
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