quietism

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「ここでは、有りのままのあなたでいいからね。」 気付けば渡良瀬さんの瞳から涙が落ちていた。 後から後からゆっくりと零れていく。 「…………生意気な新任教師。」 そう言って、渡良瀬さんは指で涙を拭いた。 彼女らしい強がりに、私は笑った。 一人では強すぎる光も、誰かがいれば気にならないかもしれない。 濃すぎる影も、もしかしたら許せるかもしれない。 渡良瀬さんを先に出し、私は準備室の電気を消した。 一瞬、圧倒的な静寂に包まれた。 でもそこに、二人の話し声と足音が響く。 窓から見える暮れ始めた空に、明るく金星が輝いていた。
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