男 と 女

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「好きな人、いるよ。」 新を見上げながら答える。 「…へぇ。」 口元を持ち上げた新が、独特の笑い方をした。 「何、」 「いや、別に。」 含みのある言い方をした新を見つめ続けると、負けたというように手を上げた。 「俺、そんなはっきりと言われなかったなぁと思って。」 降車駅の路線の終点に着いた。 乗客達が荷物を抱えのんびりと降りていく。 この時期は観光客も増え、楽しそうな笑い声があちこちからしてくる。 駅長に切符を渡すという、廃れつつある行為を終えると、目の前には見慣れた海が広がっていた。 潮の香りと風が肌を優しく撫でる。
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