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俺にとってウザイだけの存在である子供が今、俺の足元にいる。
自然と俺の眉間にはシワが寄り、女の子を睨みつけた。
しかし、その女の子は泣くそぶりも見せず、キョトンとした表情で俺の顔を眺めるようにジ~っと見ている。
すると女の子は、ニコッと微笑み、俺の顔を指差し、
「お馬さん、お馬さん。」
と、嬉しそうに叫んだ。
「はぁ~⁉」
俺はムッとした。
今まで人から馬鹿にされ、数多くの侮辱をうけてきたが、顔を馬ズラだと言われたのは初めてだった。
それをこんな幼い子供に言われて・・・
俺は我を失い、頭をブッ叩いてやろうとした。
その時・・・
「あっ‼こんなところにいたぁ~」
この子の母親だろうか、細身で競馬場では似つかわしくないスーツを着た女性が駆け寄ってきた。
俺は瞬時に握りこぶしを体の後ろに隠した。
「優ちゃん‼危ないから走り回ったら、ダメっていつもママが言ってるでしょ。」
母親は幼い我が子を立ち上がらせ、洋服の砂を払い落としながら言った。
すると、女の子は母親の細い腕に抱きつき、
「あのねママ、優ちゃんねぇ、お馬さんみたいにカケッコ得意なんだよ。」
「でも、このおじさんにぶつかっちゃった。」
女の子はペロッと舌をだし、母親におどけてみせた。
すると母親が一瞬、エッ⁉っというような表情を見せ、俺がいる方に顔を向けた。
どうやらこの瞬間まで、俺の存在に気付いていなかったらしい。
母親はスッと立ち上がると、
「ウチの娘が、ご迷惑をおかけしたみたいで・・・」
「お怪我ありませんか⁉」
と、少し乱れた肩まであるサラサラな髪をスッと指で後ろに流し、透き通るような白い肌を光らせながら、母親が優しい声で尋ねてきた。
そして娘とそっくりな母親の目が、俺の目と合いそうになった時、俺は慌てて目を反らし、うつむいて、
「・・・・だ・・・だ・・・・大丈夫です。」
と、弱々しい声で答えた。
すると彼女は娘に向かって、
「優ちゃん、このお兄さんにゴメンナサイをしましょうね。」
「はい、ゴメンナサイ。」
そういうと、彼女は自らが娘のお手本とになり、ペコッっと頭を下げた。
それを見た娘の方も、母親を真似るようにして、
「ごめんなちゃい。」
と言って不器用に頭を下げた。
娘が頭を上げたことを確認した母親は、再度俺に、
「どうも、すみませんでした。」
と言葉を残し、娘と手を繋いで人込みの中へと消えていった。
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