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「うわっ!」
寒空の冷たい空気の下に、一人の少年の声が響いた。
その声と同時に一台の白いワゴン車が、ザーッと音を立てながら凍った路面を滑走していく。
そして、少年のいた場所の数十メートル先でワゴン車は、ようやく滑走を止めた。
少年は思わずその場から飛びのく。
しかし、飛びのいた拍子に無様にも、雪の中に頭を突っ込んでしまったのだった。
「あ、ごっめーん!」
車の中から軽い調子で女性の声が飛び出した。
少年は積もった雪の中から頭を出し、先ほど横を寸でのところで掠って止まったワゴン車を睨みつける。
と、車が後退して睨む少年の前まで戻ってきて、ワゴン車の運転席のドアが開く。
中からは、ネイビーカラーのスーツを着た外国人とおぼしき女性が、特に慌てた様子でもなく車から降りてきて、平然と笑いながら少年に訊ねてきた。
「あはは。大丈夫だった?」
危うく少年を轢きそうになったはずの女性はケラケラと笑っており、そんな彼女の態度にカチンときた少年は憤慨して答えた。
「なんてことするんですか! 一歩間違えていれば、僕は轢かれてたんですよ!」
しかし、当の本人は少年が喚いている理由をまるで理解していない様子だった。
「何怒ってんのよ? 別にいいじゃない。実際、怪我はしてないんだし。命があっただけマシだと思いなさい」
「──?!」
怒り心頭に発するとはまさにこのことだろう。少年は頭に上らせた血液で、顔が熱くなったのを感じた。
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