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天使
営業からの帰り道での出来事だった。
夏の日差しが眩しい。
嫌になるほど太陽の光を浴びながらビル街を歩く。
ちょうど日陰があったので一息入れることにした。
暑苦しいスーツを片手に辺りを観察する。
誰もがみんな太陽を睨んでは諦めたように汗を拭う。
ふと一つのビルの屋上に目がいった。
そのビルの屋上には、人がいた。
何してるんだろ。
そう考えた瞬間、その人影はビルの外へと身を投げ出した。
「あ!」
思わず声が出た。
飛び降りだ。
俺は立ち上がりそちらに集中する。
しかし、人影は落ちることはなかった。
背中の辺りから翼を生やして、その翼を動かして宙を舞っている。
俺は口を開けたままその光景を見ていた。
ふと、人影がこちらを見たような気がした。
次の瞬間、その人影がこちらに近づいてきているように見えた。
いや、実際に近づいて来ている。
その速度はかなり速い。
徐々に影が大きくなり、ついにその顔が見えた。
白い翼。
紅い瞳。
尖った耳。
そして、こめかみの辺りにまで裂けた口だった。
口には鋭い歯が見える。
「うわぁ!」
思わず俺は悲鳴をあげた。
天使だと思っていた。
いや実際、天使なのかもしれない。
しかし、翼の生えた奇怪な生物が急接近してくることに冷静な判断はできないでいた。
そして俺の眼前まで来て、「それ」は急上昇して空の彼方へと消えていった。
それ以来、アニメでも本でも天使が出てくる度に、あの醜悪な顔の、悪魔のような顔の「天使」を思い出してしまう。
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