その女、美那岸 歩

4/10
前へ
/221ページ
次へ
「1.200円だ!」 『えっ?何?』 「1.200円だっ!!」 先ほど調べデジタル万引きしたCDの値段を力強く伝えると、またしても相手の返事も待たずに電話を切った。 前には各駅停車の電車。 彼女はマナーはしっかり守るのだ。 まあ、マナー云々関係無しに。今の電話の相手には毎度同じ態度であるがな。 プシュッと扉は自動で開き。開放された車内へ入る歩。うまい事に席は空いていた。しかし、歩は席には座らずに彼女は“いつもの指定場”に寄りかかった。   電車二番車両の真ん中扉左寄り。 そこが彼女の指定場。 別に、外が見たいわけでも、筋肉トレーニングってわけでもない。 ただ何となくこれまで一年と一月。ここに立っているだけである。 本人としてはさしてこだわっているわけではないが。 気付けばそこが指定場になっていただけである。 そして、今日もいつもの指定場で電車が出るのを待っていると。誰かが自分を呼んでいる事に気が付いた。 「オッハよ!」 「うぜぇ」 「朝から毒吐くなよ!?」 ソイツは山岸悠(ヤマギシ ユウ)。 歩の幼なじみで男友達だ。 まあ、友達とは歩は思っていないらしいが。悠は気にしてはいない。そういう男だ。
/221ページ

最初のコメントを投稿しよう!

316人が本棚に入れています
本棚に追加