316人が本棚に入れています
本棚に追加
バンッ!
車内に響く本を閉じる音。
閉じた本をカバンにしまい。歩はゆっくりとその場から動いた。
視線を先ほどの年寄りに向けると、そこには悠が倒れた年寄りに肩を貸している姿があった。
次に視線を不良に移すと、それを胸糞悪(むなくすわる)そうに見ている不良が写った。
「おいカス野郎。そこ退け!」
未だ座り込んだままの不良に歩がソレを言うと。言われた不良は『あっ?』と、歩を睨みつける。そして気付く。しかし、それはあまりに遅すぎた反応であった。
次にその男が見たのは、可愛い女の子ではなく。ユラユラと揺れる無数の手すりであった。
不良は再び歩に放り投げられたのである。
一日に二回も女の子に、それも同一人物に投げられる男はそうは居ないだろう。
そんな不名誉を、その不良は大衆の前で二度も晒したのだ。
「ふんっ!…さ、おばあさん席が“空いて”ますからどうぞ座って下さい」
一笑した後、歩は悠に支えられた年寄りに優しく手をさしのべた。
そして、おばあさんをゆっくり“空いた席”に座らせると。すかさず床に倒れ込む不良へと向きを変えた。
「…おいカス野郎。てめぇは次の駅で降りろ?」
彼女のスイッチが入った瞬間である。
最初のコメントを投稿しよう!