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★東京都・文京区某所(平日・深夜) 「こ・・・・・・の・・・・・・化物めぇぇぇぇあああッ!」 歪んだ怒声と共に、男は鉄パイプを振り ・・・・・・・・・ 上げ――― ―目散に逃げ出した。 深夜の立体駐車場を、青年が走る。その右手に、人肌にまで温まった鉄の感触を握り締めながら。次第にその感触すらも冷や汗に濡れて不確かなものとなっていく。 周囲には人影も無く、持ち主を待ち続ける乗用車がまばらに停まっているだけだ。 青年の周りからは音が綺麗に消え去っており、彼の耳には己の足音と洗い息遣い、そして徐々に高鳴っていく心音だけが渦巻き続ける。武骨なコンクリートの柱の間を駆け抜けながら、チンピラ風の青年は叫ぶように呟いた。 「・・・・・・く・・・・・・くくッくッ糞ッ!糞ッ!糞ッ!やや、や、やってられっかよ畜生!」 青年の目に浮かぶ光は怒りの色を放ち、それでも彼の口から怯えの吐息が振り絞られる。 その瞬間までは、対峙する者に畏怖を与える為に刻み込んでいた首筋の刺青。それが今や、チンピラ自身の恐怖によって歪んでしまっている。そして、元々大した信念も無く入れたその刺青の紋様に―――漆黒のブーツが叩き込まれた。
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