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「誠二!」 姉さんが部下の人を二人連れて来た時、俺は居間に正座してカップラーメンを食っていた。部下の人達が手際よくストーカー女の身体をバッグに入れて運び出した。姉さんは一通り部屋の中を見回すと、血の付いた壁を見てから、俺の身体をギュッと抱きしめた。 「大丈夫よ、大丈夫だから」 姉さんの暖かい温もりを感じながら、俺はただ、メシが食いにくいなぁと感じていた。 「誠二、貴方は何も心配する事はない。全部姉さんに任せて、ね?」「姉さん、あの女じゃなくて―――彼女の事なんだけど」「やっぱり誠二が連れ出していたのね・・・・・・大丈夫よ、彼女の事も私に任せなさい、いいわね?大丈夫よ、私が居る限り、誠二に怖い目なんか絶対にあわせないから・・・・・・ましてや警察なんかに貴方の事は渡さない、絶対に渡さないから、だから安心しなさい」 それだけ言って、姉さんは部下に何かを色々と命じて去っていった。 やっぱり姉さんの会社でバイトはやめよう。姉さんの周りは本社にも内緒でカタギじゃない連中との付き合いがあるらしい。姉さんの部下のこの人達だって、人が死んでるのに何も言わずに作業をしている。きっとカタギでは無かったのだろう。 こんな連中達と一緒に仕事をするのは嫌だな。俺まで悪人になってしまうから。 俺が悪人になって警察に捕まったりしたら、彼女はきっと寂しくなってしまう。それだけは避けなければ。 部下の人達が無表情なままで壁の血をふくのを見ながら、俺は静かにのびきったラーメンを胃にかき込んだ。 ああ、不味いラーメンだなあ。 これは、歪んだ物語。 歪んだ恋の、物語。
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