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植物になりたくない人間が、
人間になりたくない植物が、
ある日同時に事故を起こした。
「…さや、まさや!」
母さんだ。母さんが僕の名前を呼んでる。なあに?
「聞こえる?聞こえるの!?」
聞こえるよ。聞こえてるから。何さ。
「……」
どうして泣いてんのさ。何があったの。
「もう喋ることもうなずくことも歩くことも食べることも」
も?
「できないのね」
―・―・―・―・・・・
「太陽の光が降り注ぐ。まぶしいなあ」
この音、なあに?
「気がつけば私は地から根を出し、たんぽぽ生い茂る野原を旅していた」
この音、なあに??
「みんなが遠くなっていく。私はそこに居たい。でも私は人間になってしまったみたい」
この音、なあに???
「え?」
―・―・―・―・・・・
私達は、出会った。
同じ場所で事故にあって、私達は今ここで出会った。
「あなたはあの時、事故にあったの。一輪車に乗った女の子が道路を横切ろうとした時、あなたはその子の上に覆い被さったの。覚えてる?」
ああ何となく。その前にたんぽぽが喋っている件を解明したい。
「あのトラックに、あなたはひかれ、私は潰された。あなたは植物人間となり、私は人間植物となった。わかる?」
わかんない。
「私はたんぽぽのポポタン。長老のポポックにあなたを助ける方法を聞いてきたの」
これ、夢?
「私があなたの胸に根を張ります。私の身体にあなたの血液を分けて欲しいの。あなたと私が助かる方法はこれしかない、ポポック様はそうおっしゃいました」
ポポタンは僕の胸元にやってきた。にょろにょろと根っこが伸びてくる。気持ち悪い。
「いいですね。あなたはまた新たな命となってこの世界を飛び回るのです」
どういうことだろう。もう訳わかんないや。
―・―・―・―・・・・
『中継です。現場の〇〇市総合病院からお送りします。こちらが病室のベッドに突然現れたという巨大たんぽぽです。パジャマの首部分から人の顔程度の大きな花を咲かせています。手足の袖からもそれにあった大きさの花が咲いているのがおわかりになると思います!―――』
『はい。木田アナウンサー、ありがとうございました。続いてのニュースはCMの後、人型のたんぽぽが……』
まさやはたんぽぽに、ポポタンは人間になった。
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