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近い。近すぎる
この若者、私との距離およそ50センチと見た。
最近話題の親父狩り、今私は狩られようとしている。に違いない。
何だよー、今流行りの髪型にダウンジャケット、ズボンは腰パンときた。やられる。に違いない。
コンビニのビニール袋には大量の商品。パシャパシャ、パシャパシャ。無機的なサウンドが親父の不安を一方的に募らせる。やられる。
10メートルくらいの間隔で道を照らす街灯。雪道を白く染め、またしばらく暗黒の歩道。白くなっては暗黒。白くなったかと思えばパシャパシャ。怖い。
武道をたしなんでおけば良かったと思うことは後にも先にも今が最大値であろう。怖い。怖いなあ。
次の角を私は曲がる。住宅はそんなにあったものではない。住宅地と呼ばれるには知れている。
奴が次の曲がり角で私となお、この距離を保ったままついてこれば、私の不安はもはや不安では無くなる。確信。シュアー。
わあ、滑った。どうだ、奴は……直進。曲がりはせずそのまま暗黒と純白の繰り返す遊歩道を直進した。
やったあ。何だか私は勝ち誇った気分になった。と同時に彼に詫びる気持ちでいっぱいになった。
すまない。あんたが真後ろに来た瞬間、私は財布のことしか考えていなかった。金をおろしたばかりだった。不安で不安でしょうがなかった。
だがあんたは…帰路を純粋に歩むだけだった。すまなかった、すまなかった。美味しいコンビニ弁当をたんとおあがり。
しばらく彼の背中に未練を飛ばしていた数秒後、彼が私とは別の親父をはがいじめにしていたのを見たときは震えが止まらなかった。
二ヶ月後、私が極真空手の日本チャンピオンになったことは言うまでもないが言っておこう。
父さん、俺強くなったよ。
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