其、不良

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「ありがとうな、クッキー。美味しかった、凄く。…玄関には辿り着けなかったけど、結局」   八田が俺の右肩に顎を乗せ、耳元で朝(その場逃れに)渡したクッキーのお礼を囁いてきた。 朝見せた反応からも、きっと玄関まで辿り着けないだろうな、とは思っていたけど、そこは予想通りだったみたいだね。 それより、作る側にしてみれば一番嬉しい褒め言葉を言ってくれるのは、素直に嬉しいし何だか気恥ずかしい。けど、わざわざそんな耳元で言ってくれなくても…普通に言ってほしかった…。 くすぐったいし…何故か、目の前に居る白熊さんが物凄い剣幕で睨んでるし…。 離してくれるかなー、八田君? 俺、今凄く逃げたいんだー…。 「何だ…てめぇ…」 「…あんたこそ、どこの誰だよ」 声音からもすっかりと怒りのみえる白熊さんが、俺の背中に張り付く八田に噛み付く。 それだけでも充分怖いのにこの八田、挑発じみた言葉と鼻で小さく笑いやがった。 そ、そういうのは俺を挟まずにしてくれるかなっ!? せめて、俺を解放してからっ…。 巻き添いなんて心底遠慮したくて、首に巻き付く八田の腕を何とか引き剥がそうともがいていたら、ネクタイを急に強く引かれた。 誰が引いたのかは考えなくても解ったけど、急なことで顔を上げるとほぼ同時に、俺の顔の横を何かがもの凄い速さで通過した。  
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