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「……チッ」
「……(あ、ありえない!!)」
俺の横を、風を切って掠めたのは、白熊さんの左ストレート。
背中の重みも無くなり、白熊さんも苛ついた舌打ちをしたことから、八田は当たるギリギリのところで避けたみたいだ。
そ、それより、白熊さん危なっ…!?
引かれた拍子に膝立ちになって、しかも未だネクタイを掴まれたままで立ち上がる白熊さんを見上げれば、非常に不機嫌そうな剣幕で八田を睨んでいるのが見えた…。
ネクタイを引かれ、白熊さんのパンチが顔の横を掠めた時には一瞬止まった(と本気で思った)心臓も、あまりの恐怖に今では五月蝿いぐらいに鼓動している。
勿論、毛穴という毛穴から冷たい嫌な汗が噴き出している。けど、喉は水分が一気に乾いてカラカラ。思うように声も出ない。
「あっぶねぇの。…なぁなぁ、ミチル。今度また作ってよ、クッキー」
背後から聞こえてきた八田の声に振り向けば、意外に頭の位置が上方にあり、どうでもいいけど背が高いことに気付いた。
そんなことを考えてしまったのが、まずかったのか…八田への返事を声の代わりに、反射的に首を縦に小さく振ったのがまずかったのか……何がまずかったのか…。
ふいに、掴まれていたネクタイが離され、息苦しさが無くなったと同時に、今度は白熊さん自身が俺の横を通過し、目にも留まらぬ速さで八田との距離を詰めた。
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