其、フルーツタルト

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「うーん…ちょっと、水をかぶってさぁ…」   「水…、ですか?」 相変わらず困った様な苦笑をその顔に浮かべたまま、九条先生が言いにくそうに言い淀む。 「あ、先生。着替えてきたんですね」 「…うん、まぁ」 着替えが必要な程、水をかぶる要素を自分では思い付かず、先生から事の真相を聞こうとした矢先。 材料を取りに行った松永先輩だけが両腕でそれを抱えて帰還した。部長は1年生達に捕まっているみたいだけど、今はどうでもいい。 それより松永先輩が、先生が着替えて来たのを知っていたことの方が気になる。 …あれだろうか。 俺が被服室にこもってる間にここに来て、それで水でもかぶる羽目になるようなことでも起きたのだろうか。 「1年生達が来る前に、竹中の手伝いで外のプランターに水をあげてたらね、ホースが暴発してさ…」 僕だけびしょ濡れだよ、あはは…。と乾いた笑い声を漏らしながら、九条先生が俺に事の真相を話してくれた。 着替えを持っていたことも些か気にはなるけど、先生のやるせない表情を見ていたら、今は、災難でしたね、ぐらいの言葉しか思い付かずそれ以上は何も言えなかった。  
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