ハジマリ

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ガン、と鈍い音をたてて船が揺れる。 激しい縦揺れが船内に響く。 丁度良い極限状態。 隣りの森羅木は転げて頭を打ったらしい。 呻き声を上げて横で蹲っている。 悲鳴が飛び交う船内。 落ちる照明。 失われる視界。 闇の触手が人々の心に手を伸ばし浸食する。 「……我々は種を保存しなければならないのである!」 マイクロフォンから受信した音波は電気信号へと姿を変え、増幅し、スピーカーから大音量でその音を轟かせている。 ……スピーカー? 停電しているのにスピーカー? 冷静に考えれば有り得ないことが理解出来ただろう。 しかし、錯乱状態の我々ではそれは不可能だった。 ましては隣は気絶中、理解するにも外界とのリンクをシャットアウトしている。 気楽な奴め。
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