陸という男

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昨日までの、いや、今朝までの陸であったなら、迷う事なく有紀の手を握り返していただろう。 しかし、美里に出会ったこの数時間で、陸は確実に変わった。 「やめろよ」 冷たく一言言い放つと、膝に置かれた有紀の手を払いのける。 有紀は驚き、ショックを受けたかの様な表情を浮かべているが、知ったことではない。 「お前って本当に鬼畜」 そう言っていた友達が見たら、「一体どうしちゃったわけ?」と驚くだろう。 いや、「熱でもあるんじゃないの?」と心配するかも知れない。 そんな事を想像し、『うるせぇよ』と、陸は心の中で呟いた。 美里以外は欲しくない。 美里以外の女に触れるのも、触れられるのも嫌だ。 陸に迷いはなかった。
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