僕を猫と呼んだ女性（ひと）

一目惚れ

3年前の9月。

25歳の陸は、生まれて初めて通勤ラッシュを経験していた。

高校は歩いて行ける距離だったし、2年の時に中退してしまった大学も、通勤ラッシュとは無関係な時間帯に家を出ていた。

ましてやその後に就いた数々の仕事は、車通勤だったり夜の時間帯だったりした為、朝のラッシュ時の電車に乗るのは本当に初めてだった。

『…すげぇな』

気分が悪くなりそうなのを何とか堪え、目的地である渋谷で降りた。

サラリーマンでごった返す改札を抜け、10分程歩くと、陸が今日から勤める会社のビルだ。