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辺りに刃物が肉に突き刺さる音が響き、次々とあがる悲鳴。
教師も、生徒も、恐怖のどん底に突き落とされる。
だが、刺されたのは綾ではなかった。
つかさである。
脇腹から大量の血を流しながらつかさはその場に膝から崩れ落ちた。
あっという間に真っ白な地面に紅が浸食していく。
つかさが綾を庇ったわけではない。
つかさには命を賭けてまで守る友人などいないから――。
綾が自分の身を守るため、つかさを盾にして、突き飛ばしたのである。
あまりの激痛に顔が歪む。
朦朧とする意識の中、どうしようもなく涙が溢れた。
身体の痛み故ではなく、心の痛み故だった。
(本当の友達なんか私にはいないことなんてわかっていたのに……)
いざ自分の身の安全とは言え、裏切られるとなるとこんなにも悲しい、こんなにも寂しい。
適度な距離感を保って、当たり障りなく付き合い、上辺だけの友人関係を構築していく。
そんな姿勢に対するツケが回って来たのだろうか。
(私、死ぬのかな……)
死にたくない。
死の淵に立たされて初めて心から“生きたい”と願った。
意識が薄れゆく中、やり残したことを悔やみ、次々と考えが頭の中を駆け巡る。
(どうせ死ぬんだったら高杉さんのお墓参りに行きたかったなぁ。あと史跡もいっぱい巡りたかった……。死んだらせめて高杉さんのお墓の近くで眠りたいなぁ……)
もし神様が今の私を哀れんで一つだけ願いを叶えてくれるなら、
(高杉さんと、共に生きたい)
脇腹に走る激痛に眉を寄せ、つかさはゆっくりと目を閉じ、意識を手放した。
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