医者の言い付け無視するべからず

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  無事、サラシを巻き付けたつかさだが、ふとあることに気付く。 (あ、着物の着方わからないや……) 現代っ子で和服は七五三や夏祭りの際に数える程しか着たことがなかった。 着付けも全て人任せ。 一人で着れないのも無理はない。 (どうしようこれ……) 解いた帯を呆然として見つめていた。 いつまでも半裸で考え込んでいるわけにもいかない。 とりあえず着物を羽織ると衝立からひょこっと顔を出す。 玄瑞と目が合うと手招きをした。 流石に愛する晋作に半裸を晒す勇気はなくて玄瑞だけ。 「ちょっと……」 「俺か?」 自身を指差して訝(いぶか)しんだ玄瑞だったが、すぐに立ち上がって来てくれた。 彼が部屋に入るとそっと障子を閉める。 単刀直入に訳を説明した。 「着物の着方がわからなくて……」 玄瑞はぱちぱちと目を瞬かせる。 珍しい物でも見るかのように凝視していた。 着物が当たり前の幕末においてそれが着られないというのは玄瑞の目にも相当奇怪に映ったに違いない。 「着物はほとんど着たことがないんです」 「あぁ、確かお前は異国の着物を着ていたな」 つかさが話すと玄瑞は思い出したように手を打った。 嫌がる様子もなく手早く着付けてくれる。 「帯、きつくないか?」 「はい」 「なら良かった」 「あ、あの……」 着付けが終わるや否や講義室に戻ろうとした玄瑞を袖を引いて止めた。 まだ伝えたいことを伝えてはいない。
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