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喧嘩を終えた大樹は、自分の家へと帰って来た。三階建ての一軒家だ。
一回はガレージとなっており、普段は車がない。
それがあるということは、彼の父親が帰ってきているということだ。
「ただいま」
「…」
リビングに上がり、父親がテレビを見ていたから挨拶はしたが返事がない。
が、これが彼らの普通なのだ。
彼には大学生の姉が一人に、中学二年の妹が一人と、二人の姉妹がいる。
姉の高美(たかみ)は才色兼備、家事も完璧。
その流れるような黒髪に、優しそうな顔立ち。理想的なスタイル。まさに非の打ち所がないかのようだ。
だが、彼女は重度のブラコンである。
妹の祐実(ゆうみ)は遊びたい盛りながらも、姉が勉強を見ているので塾に行く必要がなく、成績はいつもトップクラスを維持している上に、見た目も文句無しの美少女だ。
姉とは対称的にショートの焦げ茶色の髪。活発そうな顔立ち。まだまだ発育期だが、将来性のあるスレンダースタイル。
が、やはり彼女もブラコンだ。姉に負けず劣らず。
さらにこの上彼の両親もほぼ完璧人間だ。
大樹が『普通』なのは、あくまで『能力』を『社会的』に見て、だ。
この家族においての『普通』のレベルはかなり高い。
それもあってか、大樹は決して頭が悪いわけではない。むしろ『普通よりいい』レベルではある。
日頃から結構社会のニュース等に対し、家族内で冗談を交えながらハイレベルな会話を交わしているからというのもあるからだろう。
が、あまりにもそのレベルに違いがありすぎて、大樹が結局聞き役に徹する事が余りにも多い。
圧倒的な思考レベルの差。流石の彼もこれはどうにも出来なかった。
そのままグレて大樹は不良になり、夜の街に繰り出して喧嘩をし続けていた。
この事に対して、家族は何も言えなかった。『何故こうなのか』と愚痴を溢す事も出来たが、誰も言わなかった。高美の時に厳しくし過ぎたと言うのもあるが、彼には自由な発想でいて欲しいからだ。
それに大樹自身、姉に近づけるように、子供心に努力はしてきたのだ。
しかし年を重ねるごとに、それは高望みだ、という答に彼は至ってしまった。
そこから彼は、それなりの努力しかしなくなり、それ以上を求める家族との距離も、自然と置くようになったのだ。
自分は姉とは違う。
自分は二人とは違う。
大樹が次第にそういった家族内での劣等感や疎外感を感じ出すようになったのは、ほとんど必然とも言えた。
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