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その事に一番早く気付いたのは、妹である祐実だった。
「お兄ちゃんの元気がないの。どうしたらいい?」
これまで我が儘一つ言わず、聞き分けのいい、『良い子』で居続けた大樹だったが、流石に辛くなったのだろう。
これで何か言ってくれる。
そう思った高美と両親だったが、大樹は何も言わなかった。
しかも、大樹は話をしても適当に相槌を打つばかり。
何か聞いても『特にねぇから心配はいらねぇよ』と笑う。
その微笑みは辛そうだったが、本人が言いたくないなら無理に聞くことはないと、普段通りで居続けた。
それが大樹にも辛かったのかも知れないが。
そして、帰宅が遅くなったり、部屋にわざと携帯を置いて行ったりするようになる。
持っていっても電源を落としていたりして、連絡が付かないようにしていた。
帰って来てから心配して声をかけられても、心配はないの一点張り。
一見普通に暮らしていたため、何とも無いように振る舞っていた。
その理由はただ一つ。
『普通の俺が家にいたんじゃ、高みを目指す姉貴や祐実が勉強に集中出来ねぇだろうから』。
不器用な思いやりだととれなくもない。
が、やり方がまずかった。
それに、彼は知らなかった。普段から彼は部屋にはあまり寄り付かずリビングに居て、寝るときと着替える時だけ部屋にいるからあまり物が散らかる事はないが、それにしても生活している感じがせず、埃や塵一つ無いほど綺麗すぎることを。
たまに彼の脱ぎたての靴下やアンダーシャツが無くなっていることを。
そして、姉妹が心配を通り越して病んだ事も。
幼いころから、「大きくなったら、大樹の面倒は私が見たい」という高美と、「お兄ちゃんとずっと一緒にいたい」という気持ちを持ち続けていたのだ。無理もないだろう。
危ない薬の匂いなんてしないし、タバコの匂いも酒の匂いも、服からしても彼からはしない。
定期検診でも以上がないためある意味安心していたが、たまに妙な匂いが着くときがある。
まあだいたいカラオケだったりゲーセンだったりするが。
もはや、中学に上がった時点で、彼の心は家でも休まる事はなく、疲れるばかりだったのだ。
危ない面子とつるんでいるためか、喧嘩も力も物凄く強くなった。
それと引き換えに、心はすり減った。仮面を必死に被っていたからだ。
家族の中では大人しいが、一度外に出て繁華街でも繰り出せば、一瞬で彼は『狂犬』となった。
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