第一部 全ての崩壊と始まり プロローグ

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大学生の姉や専業主婦の母に、いつも聞いていた。 「お兄ちゃんに会いたいよぅ…、いつ会えるかな?」 それに対して返せる言葉はこれしかない。 「いい子にしてれば必ず会えるさ」 日に日にやつれていくのを見るに見かねた継実や高美が大樹を呼び出して話をしたくても、大樹は携帯を置いていくか、電源を切っているために、話が着きようが無いのだ。 必ずいるはずの朝はギリギリまで寝ている。 それでも母よりは遅いにしろ、祐実よりは圧倒的に早いのだ。 だから話をする暇も無いほど急いで準備して、パンをくわえて飛び出すのは当たり前で、最悪食わずに飛び出し、途中のコンビニで何か食うこともある。 学校でも落ち着いていて、何かしらの問題を起こしたことは無かったため、家に苦情が来ることもない。 そのまま学校の授業を受けて帰り、帰ってきてから10分経たずに出かける事が普通。 だから祐実とは時間がどうしても合わない。 前期入試の底辺校で進路を決めるつもりの大樹は、難関校と呼ばれる高校の受験勉強をする妹の邪魔をしないようにしていただけだ。 だが、そのせいで試験後、高美は意識を失った。 同じように、祐実も意識を失った。 理由は高美が過労と栄養失調。 祐実は過労。 大樹が心配で夜も眠れず、食事もロクに喉を通らなかった結果だ。 祐実は食べ物は食べたが、眠れなかった。 それほどまでに彼女らは、大樹を溺愛していた。 そんなことがあってか、余計に大樹は家族と距離を置くようになったのだ。 自分のせいだ、と思い込んで。 まだ頑張らなくてはならない。それまでは高美達に会わせる顔がないと思い込んで。 無断外泊こそしなかったが、出かける際、誰かに朝帰りになるかどうかだけ告げて出かけるようになった。 ある時は友人の家で一晩何かして遊び、またある時は先輩や仲間を連れて徹夜でカラオケ、またある時は繁華街をウロウロしたり。 返り血にまみれて帰って来ることもあれば、刺されて病院に担ぎ込まれたこともある。 夜の街で命をかけ、プライドをかけて戦うストリートファイト。 何度死に目を見ても、色々な事に耐えるあまり、自分の体を大事にしない大樹だったから、肉親に泣かれても止める気は無かった。 むしろ時が過ぎるごとに過激にもなっていった。 その経験のお陰で様々な武器に慣れたと言っていいだろう。
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