始まりの音

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キーンコーンカーンコーン――。 「それでは、今日の授業はここまで。宿題を忘れずに」  教壇に立つ僕は、生徒に笑顔を向けた。  授業から解放された生徒達は、礼もままならずに各々散っていく。  中学生は元気がいいな。  自分が中学の頃を思い出し、懐かしい気分になりながら教室をあとにした。  季節は秋。  もうすぐ冬の便りが届くであろう11月に入ったばかり。  教員生活も3年目になり、少しは慣れ親しんだ校舎の窓から、夕日が差し込んでいた。 「紫月セーンセ!」 「はい?」  呼ばれた声に振り向くと、女生徒が数人集まっていた。 「どうかしましたか?」  僕が笑顔を作ると、生徒のひとりが顔を紅潮させて、早口で話始める。 「保健の安達先生に赤ちゃんが出来たんだって! それでね……」 「代わりの保健の先生が来るのは、今朝の会議で聞きましたよ」  そう言って話を区切ると、生徒達はまだ話し足りないのか、次の言葉を投げて来た。 「でも、どんな先生が来るのか知らないでしょ!」  確かに、誰が後任なのかはまだ知らされていない。生徒達が先に知っている理由を聞こうとした、その時だった。 「よう、久しぶりだな浅陽!」  え……?
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