遠い心

4/20

81人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ
 本当に世話がやける。保健医がこれでは生徒に示しがつかない。  やれやれと思いながらも、とりあえず丞を空いているベッドへ押し込んだ。 「教頭先生に言ってきますから、おとなしくしててください」  そう言って丞の側から離れようとした時、熱を帯びた掌が僕の手首を掴んだ。 「ここにいてくれ、浅陽」 「何言って……」 「頼む」  潤んだ目で僕を見上げる丞。……僕は高校時代をふと思い出した。当時学校で熱を出した丞が、今と同じように傍にいてくれと強引に引き留めたのだ。  そうだ、あの時は――。 「なぁ、デコに手をあててくれ。浅陽の手は冷たくて気持ちいいから好きなんだよ」 「……!」 『好き』  丞にとってはなんでもない言葉が、僕の胸の鼓動を速める。  ――ダメだ。このままではおかしくなってしまう。早くこの場を離れないと、気持ちのコントロールが出来ない……!
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

81人が本棚に入れています
本棚に追加