遠い心

5/20

81人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ
「タオルを濡らして来ますから。おとなしくしててください」  ようやく言葉を絞り出して、僕はその場から立ち去ろうとした。しかし、丞の手が僕の腕をしっかり掴んで離さない。 「何でだ? 何でそんなに俺から逃げようとすんだよ」  僕の背中を伝って、丞の不満げな声が聞こえる。僕だって傍にいたい。でも気持ちを抑えきれなくなったら……。自分でも何を言うか解らないんだ。  頼む、離してくれ、丞……!  頑なに振り向こうとしない僕に呆れたのか、それとも熱で辛いのか――。程なく腕は解放された。 「あー、頭いてぇ……」  誰に言うでもなく、言葉を発する丞。取り敢えず教頭に話をしに行こうとカーテンを開けると、そこにはバツの悪そうな顔をした水沢が立っていた。僕はその時、どんな顔をしていただろうか。 「み、水沢さん、戻ってたんですか?」  動揺して上手く言葉が出てこない。そんな僕に水沢がこう言った。 「えっと……。紫月先生と神原先生は友達なんですよね? 友達同士っていいな、と思って」
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

81人が本棚に入れています
本棚に追加