始まりの音

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 廊下をゆっくり歩いてくる人影。  白衣を着て、不精髭をはやした長身の男。  学校には不似合いな肩までの茶髪をかきあげ、その人物は生徒達をすり抜けて僕の前に立った。 「ど、どうして……」  僕が言葉に詰まっていると、生徒達がまた話し出す。 「やっぱり知り合いなんだ!」 「紫月先生、ちゃんと紹介してよー」 「あー。うるせぇなぁ、チビ共。とっとと帰れ!」  男が一喝すると、生徒達は騒ぎながらも教室へ戻って行った。 「さて、と」  まだ状況を飲み込めていない僕を見て、男はため息をつく。 「おい、2年やそこらで親友の顔を忘れたのかよ」  ……忘れるはずがない。  幼なじみで親友の顔を。  ――初恋の相手を。 「……丞」  やっと口に出来たのは、名前だけ。  もう会うことはないだろうと思っていたのに……。  封印されていたはずの僕の想いは、再会した相手によって呼び覚まされることになった。
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