始まりの音

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「水沢の面倒はちゃんと見てるぜ。なぁ、水沢?」 「寝ていてくれたほうが、うるさくなくていいんですけど」 「なっ!? ……チッ、これだからガキは」  ふたりのやり取りを見て、複雑な気持ちになるのを僕は止められなかった。  初恋の相手の丞。  男同士でどうなるものでもなく、諦めるしかなかったはずなのに。近くにいると、どうしても想いが再燃する。 「紫月先生?」  水沢が黙った僕を不思議そうに見ている。 「あぁ、いえ。なんでもありません」  慌てて笑顔を作り、水沢の頭に掌を乗せると同時に予鈴が鳴った。 「次も授業なので行きますね。水沢さん。何かあったら、頼りなくても神原先生に言ってください」 「はい、紫月先生」 「浅陽、お前は一言多いんだよ」  ふて腐れたように言った丞の横顔に、心臓がうるさくなる。  僕はそれを悟られないように、笑顔で保健室を出た。 「はぁ……」  せめて水沢が元気でいてくれたら、毎日保健室を訪れる事はなかったのに。  顔を合わせなければ、想いをまた閉じ込めてしまうことも出来たのに――。  僕の心に住み着く、丞への想い。  再燃してしまった僕の焔は、消えることはなさそうだった。
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