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丞が赴任してきてから、僕は丞との距離をとろうと必死だった。
今はまだ、気持ちを隠せている。
根拠のない自信だったが、それがかえって自分の心にブレーキをかけていた。
「紫月先生!」
不意に廊下で声をかけられて振り向くと、珍しく保健室から水沢が顔を出している。
「どうしました?」
「神原先生が……」
そこまで言うと、水沢は目を伏せた。仕方なく僕は保健室に足を向ける。
なるべくなら、丞と顔を合わせたくない。
しかし、水沢の手前、そういう訳にもいかなかった。
「神原先生?」
声をかけながら水沢の横を通ると、突然誰かに腕を掴まれた。
「――!?」
見ると、丞が真っ赤な顔をしながら僕に掴まっている。
息遣いも荒い。
「なんか、神原先生具合悪いみたいで。私、どうしたらいいかわからなくて……」
水沢は困惑気味に話す。
確かに丞は苦しそうにしている。
でも――。
そんな丞が色っぽく見えてしまい、僕の鼓動は速くなっていく。
「浅陽……ちょい肩貸せ。ベッドまで運んでくれ」
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