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「それに…」
同じ松の根本に置いてある小さな木箱に,男は視線を移す。
「お前だって,こんな人間と一緒にいたくないだろう」
さっきまでとは打って変わった優しい声色で呟き,そっと木箱を開ける。
「ごめんよ」
木箱の中にはキラリと銀色に輝く横笛が,丁寧にしまわれていた。
「お前たちも,あそこに置いて来れば良かったかな…」
横笛の入った箱を持ったまま,隣りの木の根本に置きっぱなしにしてしまったバイオリンの元へ歩み寄る。
さっき蹴散らした楽譜が自分に踏まれて,ぐしゃぐしゃになっていることなんか構わずに,まるで愛しい恋人の元へゆくかのように…。
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