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自分の靴底で汚れた楽譜たちは,暖かな彼の腕の中で,この世に生まれ落ちたことを幸せに思っていた。
いつかまた,彼の幸福に満ちた笑顔と,自信に溢れた音楽を聞けるようにと願いを込めて,今はただ彼の胸に寄り添う。
この楽譜たちは,彼が自分達を決して見捨てないということを信じて疑わなかったし,彼が無能なんかではないことを知っていた。
そして,今の彼には何も届かないということも知っていた。
「僕も才能がほしい…」
男の小さな呟きは,静かな林に溶けて消えた。
「才能ならあるじゃない」
初めて聞く声に男が振り向くと,そこには一人の女性がたっていた。
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