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「百年を生きてなお
赤子と呼ばれる松の木よ
千年もの……」
優しいけれど意思の強そうな女の声が途切れ,代わりに短い溜め息がつかれる。
「木洩れ日の通り道に,風の旅人がさしかかると…はぁ…」
その女性は近くの倒木に腰掛け,どこがてっぺんなのか分からないほど高くまで伸びている松の木をぼんやり見つめる。
「全然だめだ…」
きらきらとさざめく梢を見上げながら呟いた。
「何も聞えない…」
寂しそうな微笑みを浮べ,女性は風の音に耳を澄ませる。けれど,いくら待っても彼女が求める声は聞こえなかった。
「どうしてあたしは今まで,こんなにもたくさんの詩が書けたんだろ…」
ただ胸を吹き抜けていくだけの風が妙に冷たく感じ,女性は悲しげに若葉色の空を仰ぐ。
ぱたぱたと,彼女の手にしている紙の束が,微かに風に答えた。
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