1.悲痛の音色を纏う音楽家

3/8
前へ
/20ページ
次へ
  「なぜ…」     その男は手を伸ばし,誰もいない空に答えを求めた。     ビューザワザワ     男の問いに風が答えた。     「僕の音楽は,人々を喜ばせることのできるものだった。」     体の奥底からくる震えに耐えながら,男は問い続ける。     「なのに,林は黙り込み,動物たちは怯え,音には笑顔がない…」       松の林の上では,青い空に白い雲がのんびりと泳いでいる。   暖かい春の日差しが,自分を嘲笑っているようで男は辛かった。     穏やかな昼下がりの林で,男は沈んでいた。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加