1.悲痛の音色を纏う音楽家

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  心に染み渡る独特の音色,木々の葉の一枚一枚を振り向かせる魅力を持った彼の音楽,しかし,今は何者の心も引きつけられない。     彼の心と手の動きがかみ合わず,微細な旋律は割れ,彼の心も荒立ち,彼の音楽全てが目茶苦茶に崩れる。         彼の世界が閉ざされた。 今までに書き表した楽譜が恨めしかった。     人々に称賛された少し前の自分が別人のようで,余計に腹立たしかった。       鳥のさえずりと,こだまする林が心底羨ましく,いっそうこの林になりたいとさえ思った。       何百年もかけてゆっくりと成長していく林が羨ましくてならなかった。    
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