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長官は椅子から立ち上がり、自らの頬をトントンと叩く。
「君。頬に血が滲んでいるよ?」
ハッとした様子でソフィーは頬に手の甲を当てた。
にちゃりとした感覚。
手の甲を見ると、紅い液体がついていた。
指で探るように頬を辿ると、長さ3センチ程の浅い切り傷があった。
記憶を辿り、その原因を探る。
(ハク君の光銃はすべて防いだし、エリック君の拳はすべて避けたはず……)
しかし、ここでソフィーの目が見開かれた。
「ま、まさか……最後の?」
最後のエリックの拳は避けるまでもなかった。
あれは、エリックの方がわざと外した攻撃だったからだ。
だからソフィーは少しだけ頭をずらし、安全圏まで避けるだけでよかった。
「確実に安全圏は保っていたはずなのに。……そんな、まさか……拳圧で?」
ソフィーの体がひとりでに震えだす。
ソフィーは自らの体を抱え込み、震えを止めようとした。
必死に抑えようとするが震えは止まらない。
心臓を悪魔に鷲掴みにされような悪寒がソフィーを襲う。
「君が恐怖した場面を見たのは久しぶりだな」
その様子を見た長官は、思わずほくそ笑んだ。
それを横目で確認したソフィーは、まだ震える体を無理矢理起こし、にやりと笑った。
「私だって久しぶりですよ。長官の笑みを見たのは……ね」
捨て台詞を残したまま、ソフィーはゆっくりと長官室から退室していった。
その場に呆然と立っていた長官だが……。
「……馬鹿者が」
小さい声で悪態を吐き、椅子に体を預ける。
「……ふむ。エリック君……か」
長官は思案顔で宙を睨む。
その顔は、何かを決断しかねているように見えた。
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